――お前、屋上好きだよな。


 今から、つい五分前。

 他人とも友達とも呼べない所謂ただのクラスメートの一人にそんなことを言われた。俺はそれに「楽しいよ」とだけ答え、相手が口を開く前に逃げるようにしてこの屋上へとやってきた。

 俺が初めて屋上に来たのは、今から3ヶ月程前のことだった。かったるい授業を放棄して、たまたまサボり場所に選んだのがこの屋上だったのだ。別に、それほど大した物もないしサボり場所に特別適した訳でもない。それでも俺が毎日欠かさず屋上に来るのには、理由があった。




「今日も晴天ー!」


 どこからか、明るく弾けるような少女の声が聞こえた。

 ――それは、俺がいつも聞いてる声。俺をいつも、楽しませる声。

 俺は給水タンクの裏側まで行き、いつものように柵に身体を預け下を見下ろす。その先には、一面の木々に囲まれた一脚のベンチと、そこに腰掛け楽しそうに鼻歌を紡ぐ一人の少女がいた。

 色素の薄い栗色の髪を揺らして、時々音が外れるソプラノの歌声を草木に披露する少女。俺はそれを、気持ち悪いぐらいに緩まった表情で見下ろす。

 そう、これが。俺が毎日屋上に来る理由だった。毎日のようにこの時間になるとベンチへとやってくる少女を、屋上の上から密かに眺めるのが、初めて屋上に来た日からの日常となっていた。