「そっか」
疑う様子もなく、蕾はスポーツバッグをぬいぐるみのように抱きしめている。
華奢な体のせいだろうか。そう言った蕾が心なし心細そうに見える。
「…なんかあった?」
何もなくて教卓には隠れないだろうと思って聞いてみると。
「別に。」
どっかの誰かの真似をするように、曖昧に答える蕾。
「それじゃ分かんないって」
これもよく聞くセリフ。
「別に。」が、こんなに曖昧でもどかしい返事なんだってことを始めて知った。
「サクの真似しただけだもん」
「あっそ」
なんか色々ありすぎて疲れていて。
投げやりに答えてしまった。
最近感情表現が下手くそになって、それに短気になった気がする。
嬉しいのに、「うるせーよ」とか言ってみたり。
蕾のちょっとした一言が頭にきたり。
傷つけてること分かってるのに、うまくいかないんだ。
俺は、蕾からスポーツバッグをぶん取って教室を出た。
取りあえず、今は早くボールを蹴りたい。
蹴って蹴って、蹴りまくって、それだけに集中して。もろもろを解消したかった。
「待ってっ」
声が聞こえると、すぐに蕾も教室を飛び出してきた。
