捕まれた手を振り払い、便所のドアを開けて中へと入った。
が、こんなところに逃げ込んだらもう窓から飛び降りるしか逃げる方法はなく。
"しまった"と思い眉間にシワを寄せる。
というかこの状況の意味が分からず、ハヤマにどう声をかけたらいいのか思い浮かばない。
ハヤマが好きなのは蕾じゃないのか…?
「…ハヤマ」
名前を呼んでみても反応がない。
「ハヤマ、どうした?」
もう一度呼びかけると、伸びてきた手に両肩をつかまれ。
水色のタイルが貼られている壁に背中を思いきり押し付けられた。
押される寸前に咄嗟に閉じた目をゆっくり開くと。
ハヤマの露出した鎖骨が間近に見えた。
それに。
涙を流すハヤマの顔も、息がかかるくらいの距離にあった。
俺の胸に肩を落として頭を押し付けてくるハヤマ。
ワックスで整えられた髪が、頬にあたった。
「…なんで逃げんだよ。こんなに好きなのに」
学ラン越しに胸に響いてくるハヤマの声。
わけの分からない現状に鼓動が早くなる。
「好きだっ 大好きだっ 蕾ちゃんのことが…っ」
涙混じりにハヤマが必死に絞り出したそれを聞いた瞬間。
「は?」
と、気の抜けたような声が口から漏れた。
