「…サク」
悪い女のことを一刻も早く咲之助に教えなきゃなのに、体が言うことを聞かないのだ。
あたしの体はいきなり壊れてしまったんだろうか。
瞼が異様に重く、目を開けてるのも辛くなってきた。
身体をずるずると引きずって靴を不自然に両手でがっちりと持ち、敷いてあるすのこが途切れて剥き出しになったタイルの上に落とす。
「あいつら付き合ってんのかな?」
「橋本っすか?」
靴がパタン、パタンと落ちる音に重なって、こっちに歩いてくる男子生徒2人の会話をおぼつかない聴覚がとらえた。
「マユナちゃん、彼氏いたんだ」
「いや、あいつら話してるとこ見たことないっすよ。」
「そうなん」
「でも、橋本がまさか女のために部活早退するなんて」
―咲之助がマユナと一緒に帰った?
片方だけ靴に足を突っ込んで、まだ踏んだことのないかかとを初めてつぶし、もう片方の足は靴も履かずに地べたへ下りて駆け出す。
「サクがっ なにっ」
その2人の男子生徒の間に割って入って、咲之助のことをよく知ってる風な口を聞くほうの男子の胸ぐらに掴みかかった。
