「観月。」
「アヤって呼べー」
「アヤ、ありがとう」
あたしがそう言うと、会話が終わったのだと勘づいたように、観月は立ち上がった。
「どういたしまして。今度はあたしの恋バナも聞いてね」
爽やかに言い残し、軽やかに身を翻して階段を降りていく観月。
「アヤ、好きな人いたんだっ」
階段下の観月に向かってちょっとばかし大きな声で訊ねると。
階段上を振り仰いで、「いるよっ」と少し切なげに笑った。
「どんな人?」
「地味なカメラマン」
「地味なんだ。じゃぁアヤなら楽勝だね」
「そう…でもないんだなっ」
観月はさっきよりも切なそうな顔を一瞬見せた。
が、すぐにまたいつもの笑顔を浮かべた。
「じゃ、蕾、咲之助くんにちゃんと伝えなよっ」
「あ。うん」
「じゃねー ばいばーい」
手をぶんぶん振りながら、観月は見えなくなった。
なんか、聞かなかったほうがよかったんだろうか。
観月でもあんな顔をするんだなって。自分がさせちゃった感じがして罪悪感が残る。
どうしよう。
もう2度と恋バナしてくれなくなったら…。
