散々咲之助を悪く言って、観月は涙を流して笑い。
あたしは日々の咲之助の行動をたんたんと話し続けた。
「咲之助くんのことよく分かってるじゃん」
ひとしきり笑い飛ばすと、目尻の涙を拭きながら観月は言った。
「ううん。そうでもない」
投げ出した足の爪先を内股にしたり離したりしながらあたしは答えた。
「そう? そんなにいろんな咲之助くんを知ってるのに?」
「そんなに知らないよ。知ってるのはあたしといる時のサクだけだもん」
「でも。みんなが知らない咲之助くんを蕾は知ってる」
観月が言った言葉はあたしの頭に長い余韻を残して。
考える時間をくれるように観月はいったん黙る。
その沈黙を借りて意味をよく考えてみた。
最近、咲之助のことが分からなくて。
どんな咲之助も知ってると思ってたから、こんな気持ちになったことなんてなかった。
初めて自分の見てる世界が狭いことに気づいて、ショックで。
咲之助にひっついて、そんな不安を埋めようとしてた。
誰も知らない咲之助をあたしは知ってる。
それは、嬉しいと思う。
けど、それで満足してていい時期はもう終わりで。
変わっていかなくちゃいけないんじゃないのかな。
