咲之助はあたしから目を逸らすと、開けっぱなしの強化ガラスのドアへ近づいて行く。
久しぶりに話せた。
けれど何か見えない隔たりを感じる。
顔に笑みを浮かべたままではあったが、確かに咲之助の雰囲気は"関わるな"と、そう語っているようだった。
咲之助をこれ以上引き止める術が見つからなくて、呼び止めることが出来ない。
呼び止めてどうするのかも思いつかない。
それに、一回は突き放した身。もうあたしの都合で振り回すなんてしてはいけないと思った。
咲之助の後ろ姿に背を向けて、靴箱から上履きを取り出す。
"もう振り向かない"と自分に言い聞かせながら。
上履きをちゃんと踵まで履き、すのこから一段上がって廊下を進もうとすると。
「蕾、元気でな。」
唐突に放たれたその言葉は胸にチクリと刺さった。
意味はよく分からない。けれど、それは遠回しな"さよなら"に聞こえた。
「サクっ」
もう振り向かない。
そんな自分との誓いを簡単に破り捨てて心が勝手に叫び声を上げる。
「俺、今日で学校やめるからさ。 お前のことは阿宮に頼んであるし、大丈夫だから。」
何が大丈夫なのかちっとも分からなかった。
表情を見ている限り咲之助は大丈夫そうではなかった。
