「咲之助くん悪い女に引っかかってんの?」
観月は目を丸くしたかと思うと、グーにした手を口に当てておかしそうに吹き出した。
「なんで笑うの?」
あたしはちょっとむっとして眉を潜める。
もう少し笑っていたそうな顔をしながら、観月は「ごめんごめん」て謝罪した。
そして一つ咳払いをすると、まじめな顔に戻る観月。
「でも。咲之助くんそんなバカな男には見えないけどなあ」
「うそ。サクはバカだよ。教科書逆さまに持つんだよ」
「まあ、脳みそのシワは1、2本しかなくても、簡単に騙されたりする人間じゃないしょ」
「サクの脳みそにシワはないよ。眉間にはあるんだけど。」
「確かに。」
「たぶん、脳みそのシワが全部眉間に吸いとられちゃったんだと思う」
「あの眉間の険しさはそういうことだったのかっ」
"素"で咲之助をけなすあたしたち。
悪口言ってるなんて気持ちはみじんもなかった。
校庭から大きなくしゃみが聞こえた気がしたけど。
観月は気が付いてなかったから、たぶんあれは空耳だ。
