大人になれないファーストラバー




そばにいてくれる人が一人もいなくなった今、"好きな人"と書かれたしわくちゃの紙だけがたった一つの支えだった。



家にいても肌身離さずに常に持ち歩いていて、学校へ行く時はいつもスカートのポケットに入れていた。





遅刻しそうなほど焦ることはなくなったものの、なんとなく近道のほうを通って学校へ行っている。

今日も一人で学校の校門をくぐった。


咲之助の古びた自転車の後ろに乗って颯爽と登校して来たあの頃は、もうずいぶん前のことのように思える。




遅刻寸前になると校門の前に立っているタケちゃんとは会わなくなった。

担任だから教室では毎日会うのだけれど。





広い校庭は、隅のほうを通ると玄関まで遠いから、まっすぐに突っ切る。


木々はすっかり葉を落として、物足りなくなった校庭はなんだかスカスカしているように見えた。






生徒が登校してくる時間帯よりも少しだけ早いから、玄関にはちらほら人が見えるだけ。


もうあと数分したら生徒で溢れかえるのなんて、いつものことだけど想像もつかないほど静まり返っていた。