大人になれないファーストラバー




阿宮から紙を受け取って、自分の手のひらの上でシワを伸ばした。




"好きな人"




その言葉を見つめながら、何度も何度も確認する。
咲之助はまだ自分のことを好きでいてくれているんだ、と。



もしもまだ手遅れでないと言うのなら、確かめ合いたい。
あたしたちの本当の気持ちを。






「阿宮、サクはまだ…」




ずっと知らないふりをして、確かめることもしなかった気持ち。



この紙のおかげで、今なら素直になれそうな気がする。







「サクはまだあたしのこと…」


「蕾っ」




震えてうまく出ない声を無理矢理しぼり出しながら一語一語を確実に発していた。

が、少し離れたところから危機迫るような鋭い声に呼ばれ、最後まで言えなかった。





「あ、観月…」





あたしたちが上がって来た階段とは反対側の廊下に、息を荒げた観月が険しい顔で立っていた。





そう言ってから、また「フミ」と呼べなかったことに短い後悔が押し寄せる。


けれど、それよりも、無断で観月の前からいなくなろうとしたことがバレたのかと鼓動が早くなった。