どんなに強く言ったって、やっぱり阿宮は動じない。
「何が?」
と、悪びれる様子もなく聞いてきた。
それにますます腹が立つ。
「サクのことイラつくんでしょ?」
「イラつく。」
「じゃぁなんでそんなふうに言えるのっ」
さっきタケちゃんから助けてもらったことなんてすっかり頭から吹き飛んで、すっかりケンカ腰な口調になる。
それに対して阿宮は自分のペースを崩さず、落ち着き払った態度で、
「さあ。分かんないけども。イラつくから、そばにいるんじゃない? ただの馴れ合いじゃないこの関係が好きだから。」
と、さらりと言った。
つっこむ隙も見当たらないその返事に、言葉が詰まってイライラした。
が、最終的にはこの結論に達して腹の虫はおさまった。
「阿宮、サクに劣らずわけわかんない。お似合いだね。」
これはもちろん嫌味だった。
阿宮は一瞬目を丸くしたが、ふっとほころんで口の端を軽く持ち上げて言う。
「何しろ去年借り物競争で橋本と走ったからな。」
「その時紙には何て?」
そう聞くと、
「"好きな人"だってよ。」
と、阿宮は持っていた紙をひらひらさせ、今度は歯を見せてにっこり微笑んだ。
