「いらない?」
紙をなかなか受け取らず、黙り込んでいるあたしに、阿宮はそう切り出した。
「いらないんなら捨てるよ」
いまいち性格の掴めない阿宮は、またもや予期せぬ発言をする。
ちょうど教室の前を通過途中の時に立ち止まったから、阿宮はその教室のドアへと近づいた。
そしてドア付近にあるゴミ箱へ向けて紙を放り投げる素振りを見せた。
「待ってっ」
あたしは咄嗟に叫び、阿宮紙を握っていたほうの腕にしがみつく。
「捨てないでっ」
阿宮を見上げ、必死でせがんだ。
「捨てないよ。」
阿宮は振り上げた腕を下ろし、またあたしの前で手のひらを開く。
さっきよりもくしゃくしゃになった紙。けれど、その文字ははっきりとそれを伝えてくれた。
「橋本の大事な気持ちだもん、本気で捨てるわけないじゃん。」
そんなことを言う阿宮に、なんだかからかわれたようでむっとした。
「阿宮矛盾してる」
あたしより遥かに高い背の阿宮になめられないよう、できるだけ大きな声を出した。
