「そっか。よく一緒にいられるね。」
一通り聞きたいことを聞き出して、最後にそう言った。
嫌味にも聞こえたかもしれないが、それはあくまで尊敬して出た言葉だ。
「まあな。」
阿宮がどんな受け取り方をしたかどうか知れないが、そんなに悪い意味には取っていないようだった。
燃えるような赤い陽の光はいくらか落ち着いて、辺りは少し暗くなってきている。
「あ。」
何か思い出したような阿宮の声。
次いでゴソゴソという音がした。
なんだろうかと、それが聞こえてくる斜め後ろを振り返ると。
「これ、橋本が名取を抱えてゴールした時の借り物の紙。」
と。日焼けして黒い手の甲とは裏腹に、白い手のひらにそれを乗せて差し出してきた。
くしゃくしゃにシワが入ったその紙。
じっと見つめると、書いてある言葉がようやく分かった。
「ま、そういうことで名取を抱えて走ったらしいよ。 俺が持っててもなんだし、渡しとく。」
「ほれ。」と言う調子で突き出されたその手。
でもなんとなく紙を受け取れなかった。
