「羨ましい? サクのことが?」
どうも咲之助をうらやましがるということがピンと来なくて、「どういうこと?」と言うニュアンスを込めて聞き返す。
「おう。同じ練習量のはずなのに、橋本だけどんどんうまくなってく」
後ろを振り向かないまま、お互いの顔を見ずにただ前に進みながら話した。
「だからおんなじに練習してたんじゃいつまでも追いつけないと思って。」
心の内ではどんな感情が渦巻いているのか分からないけれど淡々と話す阿宮。
。
阿宮はただなんとなく咲之助と一緒にいるのかと思っていた。
けど、阿宮には阿宮の葛藤があって。
「悔しくないの?」
あまり深く考えず、ふいにそう聞いてしまった。
「悔しいよ。」
特に後ろめたさもないように、阿宮はすぐにそう答えた。
「イラつく?」
「イラつく。」
「大丈夫?」
「大丈夫。」
ぽつりぽつりと短い質問と返答を交わす。
どうも言葉の足りない会話で、感覚的なもので話しているようだった。
