大人になれないファーストラバー



口をへの字に引き結び、納得したようなしてないような顔のタケちゃんをそのままにして。
あたしは阿宮に「名取、行こ」と促されるままにその場を離れた。




おもむろに阿宮が階段を指さしたので、たぶん"上がれ"と言うことだと思い、それに従った。




さっきいた階の上の階にたどり着くと、ようやく緊張が解ける。


階段を上がっている最中はもしかしたらタケちゃんが追いかけてくるかもしれないとヒヤヒヤしていたのだ。





廊下に微かに響く足音が二人分になり、さっきまでなんとなく感じていた寂しさが消えた気がした。




歩調を合わせてくれない咲之助とも、並んで歩いてくれる観月とも、阿宮は違っていて。
常にあたしの斜め一歩後ろを歩いている。





「…阿、宮」




いつから呼び捨てにしていたのか分からないその名字を躊躇しつつも呼んでみる。




「ん」




咲之助よりも低くて落ち着き払った声で短い応答があった。





「なんで阿宮はこんな早くに学校にいるの?」




もちろん数学教えてくれなんてあたしから頼んだ覚えはないし。
咲之助と仲がいい阿宮に頼めるはずもなく。

どうして阿宮が学校にいるのか疑問だった。