それから何回か一人のシーンを撮って、観月は1時間後ようやく解放された。
「おつかれ」
撮影の時は脱いでいた学ランを羽織ながら歩いてくる観月に、口パク同然の小さい声で言う。
暗がりにひっそりと目立たないように座っていたのに、観月はあたしを見つける素振りもしないでまっすぐこちらに向かってきた。
視界の端のほうで、いつでもあたしを気にかけていてくれたことが分かる。
「おつかれ」
口の動きだけでもあたしが何て言ったか分かったようで、観月はあたしの目の前に屈むとそう言った。
「ねぇ、台本読んでたら、一番最後にキスシーンあったよ」
「いいね。楽しみー」
授業中にパラパラ漫画を書きこんで、すっかり個性が出た台本の最後を広げる。
本の両端をつかんで観月の顔の高さに上げて見せると、
「早く最後になればいいのにね」
と、観月は独り言のように呟いた。
たぶん、この映画撮影が早く終わって監督から解放されたいと言う意味で言ったのだと、あたしにはそう思えたから。
「うん」
て答えた。
