体育祭も終盤に差し掛かり、盛り上がりがピークに達するクラス対抗リレーが始まった。



スタートの合図のピストルの音が聞こえる。
それと同時に凄まじい声援も届いた。



俺は、そんな体育祭の音を保健室の窓越しに聞いていた。




火照っていた皮膚はすっかり冷えて、汗も引っ込んだ。

外にいた時はそれは不快でしかなかったのに、今はなんだかあの暑さがないと物足りない気がしている。


みんなの盛り上がりを遠くで傍観しているだけと言うのは、寂しいものがあるなと思った。







「…咲之助。」




そう呼ばれ、窓から目を離して振り返ると。
ベッドに横になっている佐伯がこちらを見つめて手を伸ばしていた。





「どうした、どっか痛いのか?」



座っていた椅子を引きずりながらベッドに近づき、その手を軽く握る。

ひんやりとして冷たい手だった。





「ううん、大丈夫」




俺の手を握り返し、佐伯は微笑んだ。





佐伯が体調不良を訴えて保健室に運ばれたことを、阿宮が出る短距離走が始まった時に佐伯の友達から知らされた。



妊娠のこともあり、俺は阿宮の雄姿を見ずに保健室にやって来たのだった。