校舎の中へ消えてく蕾の背中に「さよなら」を口に出さずに心で思いながら、例の紙を今にも落としそうなほどの力で握っていた。




悲しいのではなくて、今体の真ん中にある感情はスカスカの喪失感だった。
それには重みはなく、我慢しなくても涙は出てこない。







「お疲れ」




そう聞こえると、いきなり頭に何かを被せられた。
驚いたはずなのに、咄嗟にリアクションを取れなかった。





「…阿宮」




声で誰なのか予想はついた。

被せられたのはタオルで、太陽に照らされていた頭が少し涼しく感じられた。






「紙、何て書いてあったの?」




スカスカの重みのない喪失感が、"虚しい"と言う言葉に当てはまった時。
阿宮が聞いてきた。






「なんとなく分かるだろ。」



「まあ、うん。」





気遣ってくれてるのかどうなのか分からない阿宮。




俺は、「やる」と言って紙を握っていた拳を阿宮の肩に押し付けた。





「え」



「もういらないし」





阿宮の手がその紙を受け取るまで離さず、半ば強制的に紙を手渡した。