抱き上げていた蕾を下ろすと。
「蕾っ」
と、すぐに観月の声が割り込んできた。
「保健室行こっ」
まるでその場に俺なんかいないみたいに無視して。
観月は血で赤く染まった蕾の膝を一瞥すると、蕾の手を取って歩き出そうとする。
「待っ…」
…待って。
離れていく蕾についつい手を伸ばしてしまう。
少し前ならばなんの躊躇いもなく引き留めていただろうに。
なぜか伸ばした手は蕾に触れる寸前で動かなくなる。
それは空気だけを握りしめて、自分のもとへ返ってきた。
ふいに蕾が振り返り、観月がそれに気づいて歩みを止めた。
「蕾、早く傷手当したほうがいいよ」
少し厳しい口調で観月が言った。
「そうだ。早く保健室行って来い」
また気持ちとは反対のことを口にした。
"行くな"と、かっこよくきめられるのは想像の中だけで、実際は観月の視線が痛くて出来っこなかった。
その視線だって、やましいことがなければ何とも思わなかったと思う。
でも蕾に触れられる資格がないことが自分でよく分かっているから。
今は身を引くしかなかった。
