指の間に挟んである紙の内容…


去年は間違いで"好きな人"だったけど今年は違う。



だから今回ばかりは阿宮を連れて行くわけにはいかなくて。

それに。
佐伯を連れて行く気分にもなれなかった。




今日だけは、今だけは、どうか自分の気持ちに正直でいることを許してほしい。


今日で終わりにするから。

これが最後だから―…。








「2年の橋本くん、同じく2年の名取さんとゴールっ」




ゴールのテープを切った瞬間、司会役が声を張り上げた。

ゴール直前の記憶がなくて、その声でようやく借り物競争が終わったことを知る。



どうやら今年もなんとか1位になれたようだ。





いつの間にか大人しくなった蕾に、歓声のなか、自然にこぼれた笑顔をむける。

そうしたら蕾も丸い目を細めて幸せそうに笑って見せた。



途端、蕾を連れてこのままどこか遠くへ行ってしまいたい衝動にかられる。


全部捨てて、全部のことから逃げて。

蕾と一緒にいられたなら、どんなに幸せなことだろう。



そうできもしないことを望むと、現実がいっそううらめしく思えるのだった。