拒まれたものの、倒れた蕾を置いて走りだすことが出来ず、かと言って手を出すことも出来ずに。
起き上がる蕾をただ見守るように見ていた。
蕾はゆっくり立ち上がると、半スボンについた砂を払う。
そしてまた進み出すのだけど、後ろから見ていてどうもおぼつかない足取りだった。
「蕾っ 頑張れっ」
すぐ近くからそんな声援が聞こえた。
その声のほうに振り向くと、すっかり男子にシフトチェンジした観月とばっちり目が合った。
すぐに蕾の方に目を戻すと、蕾も観月を見ている。
するとふいに心臓が苦しくなる。
握り締めていた紙を、汗ばんだ手のひらを開いてもう一度その内容を確認した。
「…"好きな人"」
そこには間違いなくそう書いてあって。
目の前には膝やら肘から血を流している蕾が立っている。
そして辺りを見回すと、佐伯の姿は見当たらなかった。
今なら、理由を付けて蕾を助けられる。
そう思った途端、考えるよりも早く体が動いて。
蕾の腕を引っぱり膝の裏に手を回すと、次の瞬間にはその細い体を抱き上げていた。
