大人になれないファーストラバー




細い腕を振って白いTシャツの背中が目の前を走って行く。




「蕾っ」




それを追いかけて、俺も走り出した。
追い風が吹き、背中を押してくれる。



手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいた時、白い背中がいきなり視界から消えた。





「えっ」




反射的に下に目を向けると、蕾は地面に倒れ込んでいた。




「おい、大丈夫かっ」




しばらくぶりに蕾を心配する言葉を口にした気がする。
そこには恐れていた隔たりはなくて、ごく自然になんのためらいもなく出た言葉。




両足をのけぞらせ両手をパーにして、派手にコケた蕾は俺の声にぴくりと反応を示した。





「おい…」




膝を折って屈み、蕾の腕を引っ張り上げる。
少し前まで当たり前のようにしていたのに、今ではこうして触れられることが少し貴重に思えた。





ぐっと力強く起き上がらせるようとすると、蕾は俺の手を拒絶した。





「…自分で起きられる」




盛り上がっている応援の声も今はただのBGMにすぎず、そう呟くように言った蕾の声だけがはっきりに耳に届いた。