「…あの時は、なんて言ったらいいのか分かんなかったなあ」
半袖になった阿宮は椅子から立ち上がり、去年の惨事を思い出すように遠い目でそう言った。
「俺だってそうだし。 まさかの告白だった…」
しかも、『1年3組の橋本くん』、と司会役が連発するものだから、他学年にまでその名を知らしめてしまった。
体育祭が終わってもしばらくは『あ。あれ公開告白した橋本じゃね?』とか、廊下ですれ違う度によく言われたものだ。
あの時の蕾の視線と言ったら、なんとなく冷たかったし…。
「今年はそんなヘマすんなよな」
「絶対しないっ」
薄笑いを浮かべる阿宮に悪気はないようだが、ついムキになってしまう。
「そういや葉山が、"橋本くんのためにとっておきの借り物用意したよ"って言ってたぞ。なんだかは知らんが。」
「え、何それ。なんか嫌だ。」
「うん、俺も嫌な予感する。」
俺は阿宮を神妙な顔つきで見めて、"どうかヤツが余計なことをしてませんように"と強く祈った。
