そして、佐伯から妊娠の告白を受けてから2週間が過ぎた。
秋は深まり、木々の葉は紅くなり始めた。
空は嫌になるほどどこまでも青く、まるで世界全体が「平和だ」とうたっているように思えた。
「橋本、次、借り物競争だ。」
椅子からすべり落ちそうなほどだらけた大勢で座り、空を仰いでいると阿宮に肩をつつかれた。
「…あー、もう出番か」
おもむろにぼやいて、長袖のジャージの腕をまくった。
今日は体育祭当日。
練習もそこそこに、ついに本番がきてしまった。
雨だと予想されていた天気は見事な晴天で。
まだ紫外線がバカにできないとかで、ほとんどの女子は席を外していて日陰に避難している。
男子一色に染まった応援席は、すっかり華やかさを失っていた。
「橋本さー、去年も借り物競争出てなかった?」
借り物競争の次の種目、100メートル走に出る阿宮も長袖を脱いで準備を始める。
「あ、うん。そう。」
脱いだジャージの上着をなかなか丁寧にたたむ阿宮を見ながら答えた。
そう。
去年もなぜか借り物競争に出たのだ。
理由は簡単、じゃんけんが弱かったというだけの話。
"残り物には福があるぞ。"
なんてクラスの連中に励まされたけど、記憶によれば、散々だった覚えしかない。
