「サクっ」
踊り場から咲之助を見下ろす。ちらっと学ランの袖が見えただけで、もう影さえも見えなかった。
あたし何をやっているんだろう。シンデレラごっこなんかに咲之助が付き合ってくれるわけないのに。
のどの奥がひりひりと痛み出して熱を帯びていく。
いつまでもこんな子供っぽいやり方しか出来ない自分が嫌になる。
咲之助ばっかりが大人になって、あたしだけ置いてけぼり。
最近うまくいかないのは、たぶんこういう焦りと、咲之助に置いてかれないように必死になってることが原因だ。
咲之助にとって、今のあたしは重荷なんだ。きっと。
膝から崩れるようにへたりこむと、床についた手がふにゃふにゃとゆがんで見えた。
堪えてた涙が目に膜をつくったせいだ。
上履きを履いてないほうの足に目をやると。
咲之助の「早く帰れ」と言った瞬間の顔が目に浮かんだ。
呆れたふうでもなく、怒っているふうでもなくて。
ただ冷静なあの表情。
まだ感情的になって怒鳴り付けられたほうがいい。
あんな顔されたら、どうしたらいいか分からないよ。
