「ごめんね。困らせて。」




ボソボソと聞こえると、観月の手からふっと力が抜け、ようやく辛い大勢から解放された。



あたしは少しだけ距離を取って観月を見据える。
観月の体から離れるとすぐに涼しい風が通り抜けていき、今まで感じていたぬくもりはかき消された。






「騙してて、ごめん。」





そう言って観月はうつむくけど、身長の低いあたしはその顔を容易に覗き込むことが出来た。


泣いてはいないが笑ってるわけもなく。
伏し目がちに廊下の床をただ見つめている。





強くあたしを支えてくれていたあの観月とは同一人物とは思えないくらい、自信なさそうに立ち尽くすその姿。
それを目の当たりにして、なんだかとてつもなくショックだった。






「…知りたくなかったよ」




あたしは心のままにそう呟いた。
観月は軽く顔を上げ、「ごめん」と小さく言ってまた目を伏せた。




あたしも「ごめん」と言い残し、その場を立ち去ろうと教室の方に足を向けた。



すると、




「待ってっ」





と、大きな声で呼び止められた。


それはまるで手を強く引っ張られた時のような強制力を持っているようで。
振り向かずにはいられなかった。