「ふーん、で? 咲之助くんは直せたの?」
鏡を通して観月と目があったが、なにやらただならぬ空気を感じてぎこちなく目を逸らした。
だって、観月は笑ってはいるものの、なんとなく引きつってるように見えるんだもん…。
もしや、これもまたあたしを困らせようとしてるのだろうか。
「アヤ」
呼んだ瞬間後ろから観月の手が伸びてきて、顎を引き寄せられながら無理矢理振り向かされる。
振り返った先に、すぐそばに観月の顔があって。
息づかいをすごく近くに感じる。
迫ってくる吐息はいつものようにいちごミルクの香りはしなくて。
かわりに何か別の、なんだか咲之助と似たにおいが微かに漂っていた。
「どうした、の」
聞いても答えはなく、観月の表情は前髪に隠れてうかがえない。
強い力で顎を持ち上げられ、観月の顔のほうへどんどん引き寄せられる。
「アヤ…っ」
「…アヤじゃない」
「なに…」
「俺はアヤじゃない」
絞り出すような苦しそうな声で観月は言う。
その時、前髪の隙間から微かに観月の顔が見えた。
悲しそうな、思いつめたような顔だった。
何を言っているのか分からなくて。観月が観月じゃないみたいで、怖かった。
