「…アヤがどこにも行かないって言ってくれたから、あたしだってどこにも行かないよ」
あたしが欲しい言葉を、観月はいつも言ってくれるから。
そう思ったら自然に口から出ていた。
そしたら観月は体を離した。
きっといつもの観月に戻ったのだと、そう思って視線を上げると。
そこにあったのは苦しそうに眉をひそめている観月の顔だった。
「アヤ」
不安な気持ちと不思議に思う気持ちとが入り混じって、あたしはどんな目で観月を見ていいのか分からない。
なんでそんな顔をするのかと、観月の頬に手を伸ばした。
「…蕾」
が。あたしのその手が触れる寸前、それを制するように観月は口を開いた。
「それは友達として言ってるんだよね。」
低い声だった。
それに。たまに見せるあの怖い表情が顔に張り付いていた。
なんだか怖くて逃げ出したくなる。
咲之助に押し倒された時の怖さを、なぜか思い出した。
「あ…」
と、小さく出たが。
結局答えられなかった。
小刻みに震え出した観月の頬に伸ばしかけた手を引っ込めようとすると。
観月はその手を掴んだ。
そして自分のほうに引き寄せる。
あたしは思わず目を瞑った。
