だから、泣かないで伝えようと思う。
咲之助は騙されてるんだって。
どんどん先を行く咲之助。言葉で言っても聞いてくれなさそうだから、少し走って学ランの袖を引っ張った。
「何」
咲之助の黒い瞳があたしを見下ろす。
ばっちり目が合うと、伝えたほうがいいのか伝えないほうがいいのか判断が鈍った。
『ただの幼なじみでしょ?』
マユナの言葉が耳に張り付いてるように、あの時のまま繰り返し響いてくる。
ただの幼なじみには、そんな資格ない気がして。
もし伝えてしまったら、マユナのことを気にし始めた咲之助の気持ちを邪魔するように思えた。
「なんだよ」
冷たい目をした咲之助。
その瞳はまるであたしを泣かそうとしてるようで、見てられなくなった。
まとまらない感情が邪魔して声にならない。
最近いつもこうだ。
咲之助を苛立たせることばっかり得意になっていく。足手まといなあたし。
