「名前はなんて言うの?」
すると男の子は「シンジ」、とうつ向きながらボソボソと答えた。
「うん、分かった。 シンジ、大きくなったら今度はこの薬指に指輪はめてね。」
「待ってる。」と言った時には、シンジはふいに顔をあげて。
「変な人だね、おねえちゃん。」
と言って、歯を見せて満面の笑みを浮かべた。
それからくるっと背を向けると、リズムよく階段を降りて行った。
シンジの姿が見えなくなると、入れ替わるように観月が現れた。
息をきらしているように見える観月。
穏やかな雰囲気は一変して、なんだかひどく焦ってる様子。
「アヤ」
今度は間違いなく観月本人だ。
「蕾っ」
そんな大きな声で呼んではいないのに、観月はあたしに気付いた。
そして全速力で階段を駆け上がってくる。
「アヤ、そんなに走んなくても」
さっきまで自分だって頭真っ白のまま走ってたくせに、必死な観月を落ち着かせようとそんなことを言う。
観月はその言葉が聞こえないみたいに、階段を上がりきった勢いであたしを抱き締めた。
