「おれね、オトナになれないんだってさっ」
男の子はトボトボと階段を二、三段降りた。
「…そうなんだ」
"あたしと同じだね"とは言わないでおく。
詳しくは分からないし、同じじゃないかもしれないから。
同じだとしても、なんだか言い出せなかった。
「さっき走ってたおねえちゃん見て、なんとなく追いかけてきたんだー」
頭の後ろに組んだ両手を当てて、ふらふらと階段を降りていく男の子。
「ほんとはもっとボインなおねえちゃんにそれ渡そうと思ってたのにい」とも呟いているのが聞こえた。
「ボインじゃなくてごめん。でも、」
言いかけて途中で止めると、男の子は振り返って「ふつうはそこ怒るとこだよ!」ってやんちゃな顔で笑う。
「ああ、そっか」って言ったあたしの声は、相変わらず平坦だった。
それから続けてこう言った。
「でも、婚約ならできるよ」
男の子はもう一度振り返ってあたしを見た。するとその顔がだんだんと赤くなっていくのが分かった。
