それからちょっと経って、咲之助が教室に帰ってきた。
「蕾?」
「…トイレ長かったね」
って言いながら、教卓の下から這い出すあたし。
案の定咲之助はぎょっとした顔をする。
「ちょっとタケちゃんと話しこんじゃって」
「そっか」
「…なんかあった?」
「別に。」
「それじゃ分かんないって」
「サクの真似しただけだもん」
「あっそ」
咲之助は素っ気なく言うと、あたしからスポーツバッグを奪って教室を出て行く。
「待ってっ」
もう教室に一人にされるのは嫌で、すぐに後を追った。
ズンズン歩いてく咲之助。速度を合わせてくれる気配もなくて、寂しさが爆発しそうになる。
でも、ここで泣いたら眉間にシワを寄せてうっとうしがられるに決まってる。
だとしても、咲之助はきっとあたしが泣き止むまで付き合ってくれるんだろう。
部活をサボることになっても。日が暮れても。
あたしがそこを動かない限り、たぶんずっとついててくれる。
だからあたしダメだ。
ここで泣いたら、また一人じゃ何にも出来ない惨めな人間のままになる。
