入ってきてた女子は一人だけみたいで。
廊下からは他の2人の話し声がする。
足音は教卓の目の前で止まり、教卓の下の隙間から女子の上履きが見えた。
すぐそばで机の中をあさってる音がする。
気付かれそうで怖くて。
微かな音も漏らさないよう、口と鼻を両手で覆って息を殺した。
「あれ、ないな。どこやったんだろ。 ねえ、あたしの忘れ物知らない?」
忘れ物を取りに来たのはマユナのよう。
廊下の2人に話してるにしては小さい声で、マユナはそう言った。
ふと、教卓の上からコツンと何かが当たる音がする。
瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「…ねぇ、知らない? 名取蕾さん」
教卓をノックしながら、マユナの声が問いかけてきた。
バクバク言い出す心臓。
ここにいない人間になんで問いかけてんだろ?
予期せぬマユナの発言に何がなんだかわからなくなって、自分が隠れてることを再確認した。
あたしは今隠れてるはず。
なのになんでこの人は教卓に向かって話しかけてるの?
もはや陰口を叩かれる怖さを通りこして、マユナという存在自体に恐怖感を覚えた。
