泣きたいのはこっちのほうだ。
蕾に突き放され、その親には殴られ、身も心もボロボロだ。



雨音の歌じゃないけど、生きながらにして心が壊れそうだった。




「泣くな」



触れることはせず、ただ声だけで慰める。



「そんなんで泣きやむと思ってんのっ バカっ ほんとバカっ」



泣き叫ぶ佐伯。
これ以上どう慰めろと言うのか。



一番いとしい人には嫌われ、もうたぶん触れることも出来ない。


ぬくもりが欲しい時、俺はこれからどう生きて行けばいいのだろう…





そう思った時だった。




「あたしを好きになってよっ」




そんな言葉が聞こえて香水の香りが鼻腔をくすぐった瞬間。

佐伯の手が背中に回ってきて引き寄せられた。



「名取さんに振り回されて辛いならあたしを好きになればいいっ」



慰められる側だったはずの佐伯が、なぜか俺を慰めるようにそう言った。




「あたしね、あの時一緒にコンビニに行ってからずっと咲之助のこと好きだったの」



佐伯は、俺を抱きしめる手にぎゅっと力を入れる。




「"ありがとう"って言ってくれたことが嬉しかった」



と続けて言うと俺から体を離した。
そしてゆっくり近づいてきて、唇が重なる。


刹那、俺はそれを拒んだ。



けれど、押し倒した時の蕾の泣き顔を思い出すと、途端に絶望に飲み込まれた。