ふいに佐伯の長い髪の毛が頬に当たったかと思えば、
「…サク」
と、耳元で囁かれた。
それは蕾の響きと似ていて、落ち着き始めた感情に再び波が立った。
「ねぇ、サク」
「その呼び方やめろ」
もう一度名前を呼ばれ、佐伯の膝から体を起こして。考えるより先にそう口に出していた。
「…なんで」
佐伯は静かに問う。
「別に」
俺はまた口癖のそれを口にして、佐伯は不満そうな声で聞き返してくる。
「なんで? 名取さんがそう呼ぶから?」
「そうじゃない」
「あたしはダメってこと?」
「だからそうじゃないっ」
ついつい強くなっていく口調は、そろそろ自分でもコントロール出来なくなってきてる。
「学校休んでるのって名取さんのせい? 名取さんの変な病気のせいなの?」
絶えず畳み掛けてくる佐伯に、頭が熱くなった。
「名取さんに縛られてるの好きなの? バカじゃないのっ 変態っ」
佐伯は何やら変なことを言って、いきなりぼろぼろと涙をこぼし始めた。
