大人になれないファーストラバー



人気のなくなった校舎。

だいだい色の陽の光が斜めに差し込む教室に、あたしたちの息づかいだけが響いてる。




息づかいって言っても色っぽいものではなくて。

なんていうか、鼻息?





「…お前、いいかげん眉間押すのやめろよ」



「サクだってそろそろまつ毛とってよ」






鼻息を荒くして、じっとお互いの目を見て睨み合う。


まばたきをしただけでも勝敗が決まりそうな緊迫した空気。


まったく。いったい何が目的でこんなことになったのか。

原因は分からないけど、とにかく負けたくはない。







「俺、もう…」




眉間のシワを緩めて、困ったような顔をする咲之助。




「何? 負けを認めるの?」



「ちげーっ 一時休戦だっ 俺もう部活行かなきゃだからっ」



「休戦するならジュースおごって」



「へいへい。 じゃあ俺ちょっと便所行ってくる」



「とか言って、逃げる気でしょ」



「…いちいちうぜえなお前。 疑うんならお前が荷物持ってろ」




咲之助は、でかくてごつごつしたスポーツバッグをあたしに放り投げてくる。




受け取れる気がしなかったから、受け取る素振りも見せないで。


教室を出て行く咲之助の後ろ姿をつっ立ったまま見ていた。