「久しぶり」
それだけ喋って、俺は再び瞼を閉じようとした。
が、それを佐伯は許すはずもなく。
「ちょっとっ それだけ!?」
俺の胸ぐらを掴んでベンチから引き上げ、顔を近づけてくる。
佐伯の身体は相変わらず香水の香りが漂いまくっていた。
けどあの時とは少し違っていて、甘ったるい感じではなく。
なんというか、すっきりした香りだった。
「あんた体熱っ」
そう言うと、佐伯は掴んだ胸ぐらをぱっと離す。
俺は、そんなふうにいきなり離されたもんだから、ベンチに軽く背中を打ち付けた。
そのせいで咳き込んでいると、「あ、風邪?」とか、勝手に解釈する佐伯。
「どれどれ」と言いつつ、俺の額に手を当ててきた。
「うわっ マジで風邪じゃんっ 熱あるってっ」
言って、佐伯は一歩後ずさって大袈裟に驚いた。
「…やっぱり」
俺はそう言われてなんとなく納得。
体中熱いのに、指を一本動かしただけでぞくりと寒気に襲われる。
この感じは久々に味わったが、たぶん風邪だ。しかも夏風邪ってやつ。
「これかなり熱あるよ、やばいよ」
深刻げな顔をしてる佐伯は、なんだか似合わなくておかしかった。
