「サク」
さらに近づいてくるその気配。
感覚の鋭敏さとは裏腹に、瞼がなかなか開けられない。
鼓動に合わせてこめかみに痛みが生じる。
急激な体の異変に自分でも驚いていて、名前を呼ぶその声になかなか反応できなかった。
「ちょっと、いつまでシカトすんのよっ」
と、今度は雨の音に邪魔されず、すんなり耳に届いた。
重い瞼を押し上げるようにしてゆっくりと開くと。
そこには、
「まったくっ あんた学校サボり過ぎだからっ」
と、制服姿の佐伯が立っていた。
「なにやってんのこんなところでっ リストラされたサラリーマンみたいじゃんっ」
つり目ぎみの目をますますつり上げて、片手を腰に当てて言う。
「なんとか言いなさいよっ」
その口調は、一番最初、階段で話した時のようなか弱そうな雰囲気は微塵もなくて。
変な誤解をしてコンビニに行き、怒らせたあたりからこんな感じだよなって思った。
たぶん、いや、間違いなく、こっちが本性なんだろうけど。
