大人になれないファーストラバー



シンデレラがガラスの靴を落とした場面みたい。


咲之助の足元に落ちてきた白い物体は上履きだった。





咲之助は、しゃがみこんでその上履きのかかとに人差し指つっかけて拾い上げる。



そして踊り場で座り込んだままの女子の元へゆっくり階段を上がっていく。






「平気?」





上履きを女子に手渡しながら、低くもなく高くもない声で咲之助が聞いた。





「う、うん、大丈夫」




咲之助の手が女子の鼻先に差しのべられる。

ためらいがちに女子が手を伸ばすと、咲之助はその手を力強く引っ張りあげた。





勢いよく立ち上がった反動で女子はよろめいて。
咲之助は反射的に女子の体を支えた。



薄暗い階段でのそんな2人の姿は、まるで抱き合ってるようで。






「あ」て、声にならない叫びを、あたしは一人で上げた。





「ごっ ごめんっ」




先に焦って離れたのは女子のほう。
咲之助のほうはこれと言って大きな反応がない。


ただ、




「別に」



と、相変わらずどっちとも取れる返事。
だからこれじゃ分からないって。





「ほんとにごめんねっ」





咲之助のこの返事の仕方に慣れてない女子は、咲之助がそれほど気にしてないことに気付いてない。