咲之助は今度は迷うことなくあたしの胸元のボタンに触れた。
少し屈んだ咲之助の顔は、いつもより少し低い位置にあって。なんだか近い。
いつかの朝。
咲之助の第2ボタンにひっかかった髪をあたしが取ってたら。
顔の距離を出来るだけ離そうとするみたいに、咲之助は無理矢理空を見上げてた。
あの時はなんでそんなことするんだろうって思ったけど。
逆の立場になった今ならなんとなく分かる気がする。
それに、最初咲之助が「無理」って言った理由も少しだけ理解できた。
自分の胸元のあたりでもぞもぞ動かれるって、なんだか変な気持ちになる。
いちいち息を吸うのにも吐くのにも気を遣ってしまう。
呼吸を意識するとだんだん苦しくなって、鼓動が早くなった。
緊張もしてないのになんだかどきどきしてる。
咲之助に気づかれたらって思うと、なおさら心臓の音が大きく聞こえた。
「サク」
それを紛らすように用もなく名前を呼ぶ。
「何」
あたしはこんなにどきどきしてるのに。
さっきまでうろたえていた咲之助はいたって落ち着いた様子でそう返事してきた。
