咲之助の手が胸元のボタンに伸びて来て、あたしは手を離した。
何しろ顔の真下のボタンに絡んだために、自分だと首が疲れるだけで取れやしない。
あとは頼んだと言わんばかりに、咲之助にボタンを託した。
だが、咲之助の手はボタンんに触れる一本手前でぴたりと止まった。
「これ、どうしても自分じゃ取れない?」
取れないから頼んでいるのに、何を今さら聞いてくるのかと思う。
「取れないから"助けて"なの」
「だよなあ」と呟く咲之助。
何を躊躇しているのか、理解できない。
だから、思ったままに率直に疑問をぶつけた。
「取ってくれないの?」
顔を見つめると、なぜかたじろいだ咲之助。そして気まずそうに目を逸らすと「無理」と答えた。
拒仕されたことを不服に思いながら、仕方なく再び自分で取り始める。
取れそうな予感がしたけど、すぐに裏切られ、またボタンを摘まみ直す。
咲之助は何も言わず何もせず、そんなあたしの様子をただただ見ていた。
