大人になれないファーストラバー





―大事だよ。
サクのこと大事。

すごくすごくね、大事。



はい。さくらんぼ。
片方あげる。



さくらんぼっていいよね。
いつも2つで。
食べられちゃう時も2つ一緒。




サク。
あたしたちも一緒だよ。

いつも一緒。
最後まで一緒。


置いてけぼりには



しないでね。―





直角の曲がり角を通ろうとすると、自転車のタイヤが小石につまずいた。

身体が大きく跳ね、宙を舞う。


受け身はとったものの、雨粒の跡が出来始めたコンクリに左肩から落ちた。



「…っ」



痛みに顔を歪めて肩を押さえながら、ごろんと仰向けになる。
いっそう暗くなった空が視界いっぱいに広がった。





「さくらんぼ好きな理由、もう1つあったじゃん」




昔蕾が言ってた言葉を何年ぶりかに思い出し、そう呟く。




『ずっと一緒。
最後まで一緒。』



脳裏に蘇る数年前の記憶。




ああ、だから俺、今の今までそばにいたんだ。