鉄が埋め込まれた強化ガラスのドアを押して中へ入ると。
砂っぽいタイルの床の、ど真ん中に革靴が片方落ちていた。
蹴飛ばしたかのように、それは裏っかえていて。
ああ、明日は雨だ。と、呑気にそんなことを思った。
「それからさ、」
振り向くと、阿宮が半開きのドアが閉まらないように押さえて玄関を覗いていた。
「幼なじみ、体調悪そうだったよ」
「え、蕾のこと言ってんだよな?」
「そうだよ」
それを聞いた瞬間、どくん、て一回だけ心臓が大きく跳ねた。
俺は靴を拾い、阿宮を押し退けて玄関から出て空を仰いだ。
まだ雨は降っていない。
早く見つけないと…
「阿宮、蕾どこ行ったか分かる?」
淀みを増した空が雨粒を落とさないように見張りながら問う。
「え、たぶん家に帰ったんじゃ…」
「そっか、ありがとう」
言って走りだし、20.5の靴を握りしめてせっかく綺麗にドンボがけされた校庭を斜めに横断した。
「橋本ぉぉおっ」と言う顧問の怒鳴り声が遠くのほうで聞こえたが、そんなの聞こえてないようなもので。
まだ探してなかった"近道"のことが頭に浮かんでいた。
