「へー、大事にしてんだねぇ」
阿宮はからかうような表情一つ見せないでそう言った。
「え、いや」
無表情で言われるとなんて返したらいいか分からず、言葉に詰まる。
大事?
そりゃあ大事だけど。
どんな感じの大事なんだろう。
「あのさ、」
阿宮の声にはっとして、無意識に腕を組んで考えるポーズを取っていたことに気付いた。
「何? なんか言おうとした?」
「うん。 その幼なじみとさ、ちょっと前に会ったんだけど」
なんと。
蕾とは一番無縁だと思っていた阿宮から有力情報ゲットな予感。
「どこで」
「ここ。 あと、靴片方しか履いてなかった気がする」
「え」
靴片方しかって、まさかまだシンデレラごっこを続けていたのだろうか。しかも一人で…。
帰り際に靴箱から落としてしまった蕾の靴を思い出して。
手がかりがあるかどうかは期待せず、ただなんとなく下駄箱のある玄関に向かった。
