「じゃぁ、もう一回聞くけど…」
しゃがんだままでそう言う佐伯の上目使いは、ガンを飛ばされているようで怖い。
「…好きな人いるの?」
「い…」
最初の一文字を発すると、佐伯の目力はさらに迫力を増して。
無言の圧力を感じた。
言いずらいが言うしかなく、一回大きく息を吸って心の準備をしてから答えた。
「い、いない」
佐伯は
「なにそれーっ!!!」
と叫んで勢いよく立ち上がった。
「じゃぁ今までのは何!? あたしバカみたいじゃんっ」
そう言うなり、「大好きー」と言って今まで大事そうに両手で包むように持っていた餡まんを地面に叩きつけた。
白くつややかな皮は無惨に破れ、中身が飛び出す。
それはつぶ餡でなくこし餡だったので、ちょっと残念な気持ちになった。
と言うか、そんなことを気にしてる場合ではなくて。
暴走する佐伯をなんとかとめなくては。
「ほんと、ごめん」
なんとかすると言っても謝ることしか出来ないのだけれど。
「でももう付き合ってることになってんだからねっ」
語尾に「逃がさない」とでも付きそうな佐伯の物言いに、またまた怯んで一歩後ずさった。
