大人になれないファーストラバー



「あたし餡まん大好きなのー」と言って、早速餡まんにかぶりつく佐伯。



その様子を見ながら、誤解を解くタイミングを見計らう。

今か?
佐伯が餡まんに噛じりついて口を開けない今がチャンスなのか?




「今か今か」とそればかりが頭を駆け巡って、持っていたガムがしなるぐらい手に力が入った。





なんでだろう。
関わらないようにしていたのに、俺、今告白より気まずいことしようとしてる気がする…。





「佐伯」




とりあえず呼びかけて、話し出せそうな雰囲気作りをしてみる。



もぐもぐ動く口を手で隠しながら、見上げてくる佐伯。



俺は、目を逸らさないよう努めながら、切り出した。



「あのさ、俺、実はさっきの質問よく聞こえなかったんだ…」



「…へ?」



「だから、一番最初の質問にはテキトーに答えてて…」




佐伯の口の動きがぴたりと止まり、さっきまでキラキラしていた瞳は一変して暗い色を宿す。



その変わりように、逃げ出したくなったが、そうはいかず。
深く頭を下げて誠意を込めて謝った。




「本当にごめんっ」





あ、なんだか立場逆転してる。
さっきまで佐伯のほうが謝る側だったのに。



そう思いながら、目までぎゅっと瞑って「ごめん、ごめんっ」と繰り返し言い続けた。