大人になれないファーストラバー



聞き取れなかった時の対処法として、16年の経験から言えば「うん」て言っておけば大概のことはなんとかなるもんだ。




これでまた一つ聞き取れなかった言葉が増えたな、と一人で軽く感傷に浸っていると。




「そっかあ。 え、名前に"さ"とか付く?」





"さ"?
俺の名前には確かに"さ"が付くけど、そんなこと聞いてどうするんだろうか。




「うん」



16年の経験からして、ここでも「うん」を適用。




「ほんと!?」





俺の肩に顎を乗せ、乗り出してくる佐伯。




「…うん、ほんと」



「うっそ~ あたしと一緒~」




そう言って、俺の背中に指をくねくねさせながら当ててきた。


背中は弱いので、できれば即刻早くやめて欲しいと思う。



それに。
さっきから俺の名前呼びまくってるくせに、そんな質問しなくても分かってることだろうに。

女ってなんなんだろう。





「じゃぁさ、同時にその人の名前言おうよっ せーので言うんだよー」




勝手に話を進める佐伯。
正直言ってついていけてない俺。


"その人の名前"って…何?





「じゃぁ、行くよっ せーのっ」



もう一度聞き返す間もなく、なんだか分からないかけ声がかかってしまった。