大人になれないファーストラバー



緩やかな下り坂に差し掛かると、胴回りに回されている佐伯の腕に力が入った。



「怖い?」




"心配"とかそういうのではなくて、聞いたほうがいいのかと思って。
社交辞令のような気持ちで聞いてみた。






「ん、大丈夫っ」




一拍遅れて香水のにおいとともに返事が返ってくる。




「そうか」




会話を続ける気もなく、短く言う。
これで、取りあえず会話は途切れるだろうと思い少しほっとした。





「ねぇ、咲之助くん」




が、一息つく間もなく佐伯の声がすぐ近くで聞こえた。




「…何?」


「好きな人いる?」



ちょうど風が吹き付け、ガサガサという音で佐伯の言葉が聞き取れなかった。




そしてまた取りあえず。


「…うん」


て答えた。