大人になれないファーストラバー



「あ、荷物貸して」



佐伯の方に手を伸ばして荷物を渡すように言うと、




「えっ」



と目を見開いて驚いた顔をする佐伯。



「え?」



何か違ったか?
と俺も少しうろたえた。

当然自転車の後部座席に乗せて送るもんだと思っていたから、思わず聞き返す。




「え、なんか違う?」


「ううん、そうじゃなくて。 乗せてくれるの?」




予想外の質問に、なんて答えたらいいか分からなくなった。



取りあえず。



「うん」

って答えた。




そしたら佐伯はパーって表情が明るくなって。
もう一人でも帰れそうなほど元気に飛び跳ねた。





「そんじゃ、また発作が起きないうちに帰るか」




佐伯が倒れたことを"発作"ってことにして自分を納得させる。



自転車にまたがり、片足を地面に着いたまま佐伯が乗るのを待った。




「うん、じゃぁ乗るねっ」



佐伯がまたがると古い自転車はキシキシと音を立てた。
いつ事故が起きてもおかしくない自転車だが、はげかけた青色がなんとも絶妙で。いくら年季が入っても捨てられずにいるのだ。





「俺につかまっていいから、落ちんなよ」




念のため注意じみた口調でそう言って、不安定なハンドルを握り、ペダルを漕ぎ出した。