「ごめん…あたし体弱くて」
口に手を当てて、申し訳なさそうな顔をする佐伯。
「大丈夫、かよ…」
体調悪いわりには血行のよさそうな顔色だ。頬はほどよく色付いている。
「ちょっと大丈夫じゃないかも。 いつもは親が迎えに来てくれるんだけど、今日は1人で帰らなくちゃでえ…」
まるでそう言わせようと誘導するかのように、巧みな話術でじりじりと追い詰めてくる。
もう、言うしかないようだ…。
「…俺が、送って、行こうか?」
半ば棒読みで、顔を引きつらせながら俺はそう言った。
一瞬佐伯は歓喜に満ちた顔をしたが、すばやく表情を曇らせ、
「でも、悪いよ」
と、しおらしく言った。
「じゃぁ1人で帰るか?」
一度断ったんだから是非そうして欲しいところだが。
「帰れないかもです」
…人生そう上手くはいかず。
どうやら俺はまんまと佐伯の術にハマってしまったようで。
結局送るハメになった。
